29th 5 月 2008

技術的保護手段を講ずることの是非

原作 http://www.copyrightnote.org/crnote/bbs.php?board=2&list=20
原作者 章忠信 翻訳者 萩原有里
96.10.21.完成 2007.11.09翻訳完成

科学技術の迅速な発展速度は、すでに目を見張る段階にまで達し、レコード業者が直面するインターネットMP3流通技術の変化及び進歩は、絶え間なく賢い選択を行わなければ、時代の波に淘汰されてしまうだろう。

音楽CDをMP3シングル曲デジタル音楽データに変換し、インターネットを介して送信することができる状況にあっても、レコード業者は依然としてレコード販売を固持し、1枚のCDに10曲程度で数百元の販売ルートに乗せ音楽を販売する。この時、インターネット上を流通するMP3デジタル音楽データの大部分は許諾を得ていない違法な頒布であり、レコード業者の対抗手段である音楽CDに埋め込まれた特殊な「デジタル権利管理技術(Digital Rights Management, DRM)」ソフトウェアは、技術的保護手段として、CDをCDプレーヤー設備のみで利用可能とし、コンピュータオーディオ設備では使用不可とし、CDがMP3デジタル音楽データに変換され、インターネット上に流出することを防止している。

事実上、厳密な技術的保護手段が講じられたCDでも1人が1曲のMP3デジタル音楽データを入手してしまえば、あっという間に努力も水の泡になり、あらゆるインターネットユーザがネット上から違法なMP3デジタル音楽データを取得してしまい、適法に流通しているコピーコントロールCDは消費者にとっては有償且つ不便なものでしかなく、ますます彼らを違法なMP3デジタル音楽データ交換の誘惑に導くこととなる。

P2Pデジタルデータ交換ソフトウェアの発展後、ソフトウェアの各使用者は、いずれもMP3デジタル音楽データの受領者及び頒布者である。デジタルネットワークMP3流通が音楽消費の主流になった時、レコード業者はインターネットシングルMP3デジタル音楽データ有料ダウンロード市場への参入を余儀なくされた。しかし、レコード業者は技術的保護手段を講ずることによりMP3デジタル音楽データのダウンロード回数、フォーマット変換及び流通方式を制限し、ダウンロード時に課金し、その他の再生装置による視聴、インターネット再送信を不可とした。

技術的保護手段の有効性を確保するために、レコード業者は、法律によりこれらの技術的保護手段が解除されず、何人も技術的保護手段を解除する技術を開発又は提供してはならないことを保証しなければならないことを立法者に説いた。1996年、WIPOが採択したWCT及びWPPTは、各国に立法によりこれらの技術的保護手段を保護するよう要求し、各国も次々と著作権法を改正し、技術的保護手段の法律保護体系を構築し、中華民国著作権法は中華民国93年9月の改正時に、第3条第1項第18号「技術的保護手段」条項を増設し、第80条之2は、著作権者が講じた他人が無断で著作にアクセスすることを禁止又は制限する技術的保護手段に対して、適法な許諾を得ず、解除、破壊又はその他の方法によりこれを回避してはならないと規定し、更に技術的保護手段を解除、破壊又は回避する設備、器材、部品、技術又は情報に対し、適法な許諾を得ず製造、輸入、公衆の使用に供する若しくは公衆にサービスを提供してはならないと規定した。前者に違反する「直接回避行為」は民事責任のみで刑事責任は負わない。後者の「準備行為」に違反する場合には民事、刑事責任を追及される可能性がある。刑事責任については、第96条之1により、1年以下の懲役、拘留に処し、又はニュー台湾ドル2万元以上25万元以下の罰金を課し、若しくは併科することができる。

アップルコンピュータは、2003年4月末からインターネット上で初の適法な有料音楽ダウンロードサービスを開始した。アップルが提供するiTunesインターネット音楽はDRMによりコントロールされ、ユーザーは1曲 0.99米ドルでダウンロード後、CDに焼くこともできるし、アップルコンピュータが発売したiPods携帯音楽プレーヤーに転送し、個人観賞することができる。また、一定の数量のパソコン上で再生することができるが、無断で複製、流通させることはできない。このサービスは直ちに広い支持を得て、これに追随する類似の経営モデルの設立が続いた。2007年5月になって、制限過多のデータ形式はその他の視聴メディア上で自由に利用することができないとのヨーロッパにおける不評を受け、アップルはiTunes Plus計画を打ち出し、その提供したシングルMP3デジタル音楽データは、有料、技術的保護手段制限を講じないものとし(DRM-free)、ハイクオリティのまま複製及び流通を可能にし、1曲につき1.29 米ドルを徴収した。

米国のトップ百貨店業者Wal-Mart百貨公司は2007年5月、彼らは技術的保護手段を講じない類似のインターネット有料合法ダウンロードサービスを提供することを発表し、インターネットブックストアから起業したAmazon.comも2007年9月末からインターネット有料合法ダウンロード音楽業を開始し、その提供するインターネット音楽には、技術的保護手段が講じられておらず(DRM-free)、各曲0.99米ドル、複製及び流通を行っても一向に構わない。

各社の競争に直面して、アップル社は2007年10月下旬、再度、果敢に技術的保護手段を講じないMP3デジタル音楽データを提供することを発表し、各曲1.29米ドル、技術的保護手段を講じたデータ同様、0.99米ドルまで値下げし、同時に多数の曲目を追加し、更に多くの消費者の選択を招来し、収入を上げた。

アップルコンピュータ、Wal-Mart百貨店又はAmazon.comであろうと、ネット上で技術的保護手段を講じていない適法な有料ダウンロード音楽サービスを提供する行為は、レコード業者を説得する必要があり、これは既存概念の打破である。著作権者が非常に便利、廉価なシングルMP3デジタル音楽データを提供することができ、更に海賊盤ルートが提供することができない付加価値を加えるのであれば、ネットユーザーは、自然に習慣的に適法なルートを通じて音楽を消費し、再び時間を費やしてネット上で音楽を検索する必要はなくなる。皆が習慣的に適法なルートを通じて音楽を消費するようになれば、関連技術及び販売はますます成熟し、これらのルートの効率はさらに高まり、便利、廉価及び広範な音楽の利用と権利金の徴収に有利に働く。

科学技術は革命的な態様により、既存の技術をすべて覆し、大きく前進し、法律は時代とともに変化し、既存の枠組と考え方の下、同調しながら追随している。科学技術は永久に法律の前を歩き、法律が直ちにこれに追い付くべきか否か、「待機、聴取、観察」の後、適切な対応を採用し、これまで立法者の智慧と決断を試し続けてきた。コピーコントロールが講じられた音楽CDからシングルMP3音楽デジタルデータまで、ネットのサーバ集中型ダウンロードからP2P分散型シェアまで、技術的保護手段を講じたMP3音楽デジタルデータから技術的保護手段を放棄したMP3音楽デジタルデータまで、これらの発展のすべてが、技術的保護手段は誤った選択であり、送信の便利迅速、廉価合理性、適法な許諾による利用方法こそが音楽販売の正しいあり方であることを世間に知らしめている。もしこれが本当であれば、過去、著作権者の請求に従い、国際条約及び国内立法により技術的保護手段条項を設けたことは、音楽産業の発展の偏りを招き、プロテクトキーコード又はネット送信科学技術研究と開発も誤った判断だったのだろうか?

1984年米国最高法院は、5:4の評決でSONYが開発したビデオベータマックス技術が映画著作市場を侵害するとのハリウッド映画業者の訴えを棄却し、判決はベータマックス設備の継続開発を認めた。後に細く長いビデオテープ販売収入は映画業者の収益の主流となったことが証明された。我国の著作権法がレコード業者の強力な主張の下、第87条第1項第7号のP2P条項を追加した後も、レコード業者はezpeer及びKuroと和解し、適法なインターネット音楽配信ビジネスとの提携を開始した。これらの事実の反響があったか否か、立法者又は司法者が更に慎重に産業の将来の進展変化動向を観察及び予見しなければ、正確且つ賢明な判断はできないのだろうか?

「事後の先見の明」により、その過程に投じた努力及び結果を評価することは全く不公平であるが、歴史の発展は我々に次のことを教えてくれた。科学技術の発展の産業構造に対する衝撃は、ある種の自動調整機能が働き、立法の検討は、各方面の利益及び潜在的な可能性を考慮し、一方に偏り、無計画であってはならない。著作権者が勝ち取ったものは、長期的な視野からは、必ずしも彼らに有利ではなく産業構造を歪め、社会全体利益を失するものである。多くの場合、早すぎる対応は必ずしも適切な方法とは言えず、「待機、聴取、観察」の期間延長がかえって緩和、円満効果をもたらすこともある。

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