29th 5 月 2008

三つの禁止条項—–「ライ麦畑でつかまえて」の主張

三つの禁止条項—–「ライ麦畑でつかまえて」の主張
原作 http://www.copyrightnote.org/crnote/bbs.php?board=2&list=20
原作者 章忠信 2007.10.13.完成
訳者 萩原有里 2007.10.22.翻訳完成

台湾の麦田出版社は2007年10月上旬、「ライ麦畑でつかまえて(The Catcher in the Rye)」、作者サリンジャー(J. D. Salinger)の直筆許諾書を取得し、唯一の適法な繁体中国語版の出版となった。

著作権法第37条第1項は、「著作財産権者は、他人にその著作の利用を許諾することができ、その利用許諾する地域、期間、内容、利用方法又はその他の事項については、当事者の約定によるものとし、約定が不明確な部分については、許諾していないものと推定する。」と規定している。その他、第17条もまた「著作者は、他人が歪曲、分割、改竄又はその他の方法によりその著作内容、形式若しくは題号を改変し、名誉に損害を与えることを禁止する権利を享有する。」と規定している。前者は著作財産権者の他人がどのように著作を利用するかを許諾する権利に言及し、後者は著作者がその著作について享有する著作者人格権の「不当改変禁止権」(訳注:日本著作権法にいう「同一性保持権」)である。現在89歲のサリンジャーは、彼の作品の著作権者であり、著作財産権及び著作者人格権を享有する。中国語翻訳の出版許諾書には、著作財産権である翻訳権及び譲渡権についての許諾とともに、著作者人格権について、「三つの禁止条項」が設けられている。一つは彼の本に「古典」という文字を付さない、二つ目は本に彼の写真を掲載しない、三つ目は表紙にも如何なるイラスト、文章を使用してはならないというものである。

「ライ麦畑でつかまえて」は、サリンジャーが1951年に出版した名作であり、自伝的要素が濃厚な作品である。ある16歳の中学生が学校から4度目の退学処分を受け、父母の叱責を逃れるために家出し、ニューヨークでの一日二晩の遊蕩における心情変化を叙述したものであり、少年の反逆、彷徨、現実社会に対する不満と怒りを浮き彫りにしている。この本では品のない言葉が多用されていたことから、米国50年代の保守主義の下においては、多数の組織により禁書とされていたが、多くの者が「ライ麦畑でつかまえて」を青少年の心理を理解する手助けとして、青少年補導学習の教科書になり得ると考えた。

「ライ麦畑でつかまえて」はその後、再び注目を集めることとなった。それは、1980年ビートルズのメンバーであったジョンレノンを射殺した犯人マーク・チャップマンは逮捕時、本書を携帯し、1981年レーガン大統領暗殺を意図したジョン・ヒンクリーもまた自称「ライ麦畑でつかまえて」のファンであったことから、「ライ麦畑でつかまえて」は「反社会者が信奉するバイブル」となった。

確固とした自己を有するサリンジャーが要求した「三つの禁止条項」は特に台湾の中国語版にだけ付されたものではなく、原著もこれに従っている。これは彼がこの世の嘘、偽りを明らかにすることにより、一切の表面的、無意味な形式からの逃避、反抗を企て、高慢な態度で事に当たる風格と一致する。1951年に名作となった「ライ麦畑でつかまえて」が出版された後、1965年からサリンジャーは新作の公表を停止、隠居し、メディアのインタビューを断り、一貫してハリウッド映画の「ライ麦畑でつかまえて」の映画化の商談を断り続けた。

サリンジャーは健在であるにもかかわらず、彼の作品はまるですでに死去した作者がそうであるように尊敬と崇拝を受けている。サリンジャーは「ライ麦畑でつかまえて」の映画化を断固拒絶しているにもかかわらず、「ライ麦畑でつかまえて」は度々映画の中に登場している。例えば、マーティン・スコセッシ監督の1770年代代表作「タクシードライバー(Travis Bickle)」では、ロバート・デ・ニーロ演ずる主人公、世の中のすべてに不満を抱き、憤り憎んでいるタクシードライバーのビックルは、売春婦を客引と恋人のトラブルから解放し、救出するために売春アパートの全員を殺害するのだが、彼はいつも「ライ麦畑でつかまえて」を所持している。1997年、リチャード・ドナー監督の「陰謀のセオリー(Conspiracy Theory)」では、メル・ギブソン演ずるタクシードライバーは、実際は政府の訓練を受けた殺し屋であり、彼は毎回書店に行くと「ライ麦畑でつかまえて」を購入するのである。 2001年、ショーン・コネリー制作、主演の「小説家を見つけたら(Finding Forrester)」は、原作小説の作者マイク・リッチが隠居したサリンジャーをモデルにして書いた物語だという。

作者はこれまでずっと著作を自らが生んだ子どもと同一視し、絶対的な権利としてその容貌、コーディネイトを決定することを望んできた。サリンジャーの「三つの禁止条項」は、著作財産権者による許諾の保持にとどまらず、作者が自己の作品をどのように世間に対して表現するかの選択でもあり、その他の者は任意に変更することはできない。これは、著作者人格権における「不当改変禁止権」であると認められ、我々はこれを尊重しなければならない。

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